2025.08.09
私が革ジャンを愛すべき理由。 By 梁本貴雄
メディアのインタビューで“一番好きなレザージャケットは何ですか?”と聞かれることがありますが、僕にとってのそれは「カーコート」なんです。今回はカーコートの魅力も交えながら僕の革ジャンライフを語っていく、極めて私的なお話です。
アメカジへの興味が、革ジャンへの扉を開けた。
僕は父が設立したワイツーレザーを引き継いで二代目の代表となりましたが、幼少の頃から後継ぎとして英才教育を受けていた――わけではありません。父は朝から晩まで仕事に集中し、休みは日曜日だけ。仕事を家に持ち帰らない人でしたから、子供時代に革ジャンについて何か特別なことを教えてもらった記憶はありませんでしたね。むしろ当時はアメカジブームの真っ只中でしたので、普通の中高生がファッションに興味をもつのと同じようにミナミ(大阪の心斎橋・難波の地域)のNYLONや鐘馗堂に通ってはジーンズやワークウェア、ミリタリーウェアに自然と傾倒していきました。そんなある日、父からG-1をもらったのが初めての革ジャンでした。まだ中学三年生だったので、実際に着始めたのは高校に入ってから。
最初は硬かった革がずっと着ていると柔らかく馴染んだり、雨に濡れるとまた硬くなったり、自分の一着に育っていく過程をおもしろいな、と感じるようになったのはその頃からでしたね。その想いが徐々に強くなって大学時代に、父に言ったんです。革の世界に入りたいと。父も仕事に厳格でしたので、すぐに入社させずに某ブランドに丁稚奉公してこい、と上京してバイトから修業を始めたんです。
いつまでも追い続ける、ヴィンテージ・カーコートの強いオーラ
僕のアメカジ好きは東京で暮らし始めると、益々加速していきました。仕事場もヴィンテージ系の専業ブランドでしたし、原宿という立地のため近隣には名のある古着屋の巣窟。暇を見つけては古着屋を巡り歩く日々でした。いろんなヴィンテージのレザージャケットを実際に目で見て、手で触れる機会が増えたことで、目が肥えてきて。ワイツーの革でこんなものを造ったらカッコよくなるはず、などとよく想像していましたね。ちょうどバイクにも乗っていた時期だったので、防寒性に優れたN-1デッキジャケットをレザーでつくったら絶対ヒットするハズ、なんて思っていたので大阪に戻ってすぐにつくったのは、今もロングセラーのN-1でした。
そんな東京での生活を続けていたある日、いつものように古着屋をハシゴしていた時に下北沢辺りのショップで出会ったのが、推定1930年代につくられたであろう馬革のカーコートだったんです。当時、ヴィンテージレザージャケットの中でも大好きだったのが1930~40年代の、馬革のレザーウェアが台頭を始めた時代 ――それまで皮革防寒着はまだ一般的ではなく、シープや毛皮が主流―― の革の表情でした。ファスナーも何も付いていなくて丈も長く、馬革の良さだけが判るあの無垢な表情。使い込まれてクタッとなった革に表れる、雑味のない馬革本来の表情とでも言いましょうか。つくられてからの経年もあるでしょうが、クロムもピグメントもない、まだ馬革ができて間もない時代の質感があのデザインに、絶妙にマッチしていたんです。
それが喉から手が出るほど欲しかったんですが運命のいたずらとでもいうのか、その時に大枚をはたいてWHIT’Sのブーツを買ってしまっていたので泣く泣く諦めてしまったんです。信じられないことに、同じような’30年代のカーコートとまた巡り合ったんですけれど、その時もなぜかWHIT’Sのブーツを買ったタイミングで、やっぱり買えませんでした(笑)。もうこれは大阪に戻ってすぐにつくれってことなんだなって解釈しましたよ。その2着のカーコートの質感がその後もずっと心に残っていて、あの革質を自分でつくりたいという想いから生まれたのが、実はエコホースなんです。
つくり手=カーコート好きだからこそ、語れるストロングポイント
ディテール面での魅力を挙げるなら、僕の場合はマニアックなんですけれど身頃ポケットの経年変化。新品の頃はビシッと揃っていた玉縁が手を出し入れしていく内にクタッと落ちて、半開きになるところですね。その周辺にも自然に艶が生まれ、利き腕のクセも表情に出てくるんです。カチッとした襟が自然と綺麗に反り返ってくるのもポイントですね。
ここまで着込むことができれば着こなしも自由自在。春はTシャツ&スニーカーで無造作に着れますし、冬はネルシャツをタック・アウトして着るのが基本で、どんなパンツとも相性抜群。電車やクルマで移動するライフスタイルなら、マフラーを巻くだけで真冬も越せるのが良い。コートなので綺麗目に着ることもできるし、かつてのようにワークウェアっぽくラフに着ることもできますよね。
カンパニーストアには僕が16年前につくって着続けてきたエコホースの初代カーコートが展示してありますが、これが僕にとっての原点。気合を入れてヴィンテージと同様にチンストラップや隠しリブ、後タブなどのディテールも全部乗せでつくりましたが、そうしたディテールを排して、ただただ馬革の魅力を味わいたいと、よりシンプルにしたのが現在の完成形ともいえるモデルです。そう、ワイツーレザーのラインナップで、一際カーコートが多いのは決して偶然でもなければ、売れる人気商品だからでもなく、あの古着屋で出会ったカーコートを目指して純粋に自分が着続けたい、と思ったからなんです。